投資用一棟アパート・マンションを所有している賃貸不動産オーナーにとっては、所有期間中に発生する大規模修繕工事について、事前に計画しておくことは、建物の資産価値を維持する上でも、健全な賃貸経営を行う上でも、とても重要です。
分譲区分マンションでは、管理会社のサポートがあり、管理組合で協議し、大人数で修繕計画を立てていくことができますが、賃貸アパートやマンションでは、管理会社のサポートはあっても、殆どはオーナーが自身で計画していかなくてはなりません。
ですが、修繕計画の作成には、適切な工事内容・費用・施工時期など、実施するにあたっては、資金調達・施工会社の選定など、多岐にわたる知識が必要となり、頻度の低い大規模修繕工事では、知識や情報を得る機会も少なく、難しい作業となっているのが実情です。
今回の記事では、一棟アパートやマンションを所有している賃貸不動産オーナーに、大規模修繕工事を考える上で知っておきたい、基本的な知識を紹介します。
目次
大規模修繕工事とは?工事内容は
大規模修繕工事とは、どのような内容の工事を言うのでしょうか。
主に実施する個所や内容について解説します。
大規模修繕工事とはどんな工事をいうのでしょうか
大規模修繕工事とは、築年数の経過によって発生する建物の劣化を防ぎ、防水性や耐久性の向上、資産価値の維持向上を図るために行う工事です。
主に共用部分を対象に、高額な費用を要するものをいいます。工期も長くなるため、入居者の日常生活へ影響を与えることもあり、計画性をもって行うことが重要です。
大規模修繕工事の工事内容は?
大規模修繕工事とは、築年数の経過によって発生する建物の劣化を防ぎ、防水性や耐久性の向上、資産価値の維持向上を図るために行う工事です。
主に共用部分を対象に、高額な費用を要するものをいいます。工期も長くなるため、入居者の日常生活へ影響を与えることもあり、計画性をもって行うことが重要です。
【建築系工事】
屋根防水、床防水、外壁塗装、外壁タイル、シーリング工事、鉄部等塗装、建具・金物等、共用内部
【設備系工事】
給水設備、排水設備、ガス設備、空調・換気設備、電灯設備等、情報・通信設備、消防用設備、昇降機設備、駐車場設備
【その他工事】
外構・付属施設、仮設工事、その他工事
区分マンションを対象とした調査になりますので、駐車場設備(機械式駐車場)等、個人オーナーの賃貸マンション・アパートでは、あまり見かけない設備もありますが、参考にできる内容です。
この中から、修繕計画に基づいて、劣化具合や資金面を踏まえながら、工事内容を選定することになります。
外壁塗装・タイル・シーリング工事や屋上防水、鉄部塗装は、なるべくまとめて実施しよう
建設系工事 (外壁塗装・外壁タイル、シーリング工事、鉄部塗装、屋根防水等)は、仮設工事(足場仮設)が必要となるケースが殆どです。
建設系工事を分けて行うと、その都度、足場仮設工事に掛かる費用負担が発生しますので、一度に行うことをお勧めします。
これらの工事は、美観を保つだけでなく、防水性や耐久性の向上も目的とした工事でもあります。
室内に漏水事故が発生してからでは、原因となった個所を特定することは難しいので、計画的に行いましょう。
大規模修繕工事は何年ごとに行うべき?
大規模修繕工事には、必ずこの周期で行いなさいという指標はありませんが、一般的には12年ごとに行うのが良いとされてきました。
これは、これまでの長期修繕計画作成ガイドラインに「外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期が12年程度」との記載があったためですが、令和3年の改定により、「外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期は部材や工事の仕様等により異なりますが、一般的に12~15 年程度」と少し長めになりました。
ただし、劣化状況は、建物の仕様、メンテナンス状況や立地条件によっても変わります。
早過ぎると不要な修繕となり、費用の無駄遣いになってしまいますので、状況を見極めながら、それぞれの建物に合った周期で行っていくと良いでしょう。
国土交通省が、“大規模修繕工事の設計コンサルタント業務や施工の受注実績を有する企業”を対象とした調査によると、平均修繕周期は、13年が最も多く、全体の7割が12~15年周期で実施しているようです。
長期修繕計画作成ガイドラインによる工事項目ごとの修繕周期例
劣化進行は箇所によっても異なります。
国土交通省作成の「長期修繕計画作成ガイドライン」には、工事項目ごとの修繕周期の例が掲載されていますので、一部を紹介します。
- 屋上防水工事 →12-15年
- バルコニーや共用廊下の床防水 →12-15年
- 外壁塗装/タイル張補修/シーリング →12-15年
- 鉄部塗装 →5-7年
- 給排水管更生工事 →19-23年
- 給水ポンプ取替 →14-18年
防水工事は、施工店の保証期間が10年ですので、これもひとつの目安にしてもよいでしょう。
大規模修繕工事に向けて、毎月いくら積み立てておけばよい?
大規模修繕工事の費用については、金融機関からの借入を行う方法もありますが、額が大きいと、収支がマイナスになってしまうこともあります。
健全な賃貸経営を行っていくのであれば、毎月の家賃収入の一部を、積み立てておことをお勧めします。
それでは、一体、毎月いくら位積み立てておけばよいのでしょうか。
毎月の積立金はいくらが適正?
大規模修繕工事を目的とした積立金は、毎月いくら位に設定すればよいでしょうか。
国土交通省が作成した、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」には、修繕積立金の平均額の目安が掲載されています。
最低条件の規模でも、地上階数20階未満・延床面積5,000㎡未満と、個人所有の賃貸マンションでは大規模の部類に入りますが、これを目安にサンプルのマンションで計算してみました。
【サンプルマンション】
ひと部屋の専有面積は60㎡のファミリータイプ
総戸数9戸
3階建てのRC造のマンション。
エレベーター無
20階未満5,000㎡未満の修繕積立金の平均値は、335円/㎡・月。
ひと部屋の専有面積が60㎡では、1戸あたり20,100円。
総戸数が9戸ですので、20,100円×9戸=180,900円
マンション全体で毎月積み立てられる額は180,900円となります。
1年間では2,170,800円。
大規模修繕工事の周期を12年とすると、12年間で積み立てられる額は26,049,600円。
最低値の235円/㎡・月で計算してみましょう。
60㎡×235円=14,100円/戸
14,100円×9戸=126,900円
126,900円×12カ月=1,522,800円
1,522,800円×12年=18,273,600円
年間で1,522,800円、12年間で18,273,600円を積み立てられます。
エレベーターの無いマンションですので、最低値でも少し多い気がします。
12年の間に、室内のリフォーム工事や修繕工事、大規模修繕工事以外の工事、不測の工事も発生しますので、そこに充当しても良いでしょう。
下の表は、令和3年に改訂される前の目安です。
改正前の最低値165円/㎡・月で計算してみました。
60㎡×165円=9,900円/戸
9,900円×9戸=89,100円
89,100円×12カ月=1,069,200円
1,069,200円×12年=12,830,400円
年間で1,069,200円、12年間で12,830,400円を積み立てられることになります。
積立額については、多ければ安心につながりますが、多過ぎると余剰金過多になり、投資効率が下がることがあります。
ガイドラインは、区分マンションを対象としたものですので、あくまでも目安として捉え、適正額については、実績のある管理会社と相談しながら算定すると良いでしょう。
施工業者の探し方、選び方
施工業者の探し方にはいくつか方法がありますが、主な方法としては、「管理会社や知人からの紹介」と「ネット検索」の2つが挙げられます。
大規模修繕工事は、数ヶ月にわたり、入居者の日常生活に制限を強いることになりますので、クレームやトラブルになることも珍しくありません。
そういう時の対応力は、業者選びの重要なポイントのひとつですが、初めての大規模修繕工事では、依頼する前に対応力まで知ることは不可能で、ほぼ印象だけで判断することになります。
その点、依頼したことのある方からの紹介であれば、対応や施工の質も教えてもらえますので、安心して依頼できます。
紹介してくれる知人や管理会社が周りにいない場合には、ネット検索になるかと思います。
大抵の業者は見積りや簡易診断は無料で行ってくれます。
比較検討するため、手間は掛かりますが、複数社に相談してみるとよいでしょう
大規模修繕工事を実施するにあたって注意しておくこと
工事期間中は、足場を組んで養生シートを設置しますので、採光や通風等に影響が出ますし、騒音や振動、悪臭等も発生します。ベランダの防水工事期間には、洗濯物を干すこともできません。
敷地規模によっては、足場のスペース確保のため、駐車場が利用できない場合もあります。
対応によっては、不満が退去に繋がることもありますので、事前に通知し、工事に理解をいただく必要があります。
また、こういった場合に円滑なコミュニケーションが取れるよう、日頃から入居者との良好な関係を築いておくことが肝要です。
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1976年生まれ、東京生まれ東京育ちで2人の娘の父です。長く賃貸管理の現場を経験してきました。自身もオーナーとして不動産投資や賃貸経営を行っています。その経験を共有し、皆様の賃貸経営にお役立ていただければと思い本ブログを運営しています。
【保有資格】CPM(米国不動産経営管理士)/(公認)不動産コンサルティングマスター/ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士/管理業務主任者/相続アドバイザー