賃貸経営を行う上で、トラブルになることが多いのが退去時の敷金精算や原状回復工事の負担区分について。
インターネットに情報が氾濫している昨今、トラブルになりがちな退去立会では、原状回復費用の負担区分について、入居者もしっかり勉強してきます。
貸主も借主も、管理会社も、3者がきちんとした知識を持って退去立会や敷金精算を行うことは、不要なトラブルを避けるうえでも、とても良いことだと思います。
今回は、原状回復費用の負担区分についても、特にトラブルになりがちな、クロスの張替えについて解説します。
この記事を読んで、トラブルになりがちな退去立会や敷金精算を、貸主・借主どちらも納得がいくものにし、賃貸借契約の最後の日を、双方にとってモヤモヤしない日としていただけましたら幸いです。
目次
クロスは6年で0円になるって本当??
退去立会の際に賃借人から、「6年以上住んでいたからクロスの張替え費用は掛かりませんよね」といわれることがあります。
国土交通省が、トラブルの多い賃貸住宅の退去時の原状回復に係る費用について、契約関係や費用等の負担のルールのある方を定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」には、「6 年で残存価値1 円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する。」とあります。
減価償却の考え方によるもので、償却資産であるクロスの耐用年数は6年のため、6年を経過したクロスは本来の価値を失っており、それを新しくするは価値の向上であり、費用を借主に負担させるのは不公平ということです。
「6年経過したクロスの張替え費用は、賃借人の負担とはならない」というのは間違いではありません。
ただ、全てにおいてそれが当てはまるかというと、そうではありません。
経年劣化や通常損耗か借主の故意過失なのかによって負担者が変わる
原状回復ガイドラインでは、建物の損耗等とは、以下の3つに分類されています。
- 建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)
- 賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
- 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等
また、原状回復とは、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」とも定めており、経年変化と通常損耗による建物の損耗は貸主の負担、故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗は借主の負担で、原状回復として復旧することとしています。
当然のことながら、耐用年数を経過したクロスにおいても当てはまり、耐用年数の6年が経過していなかったとしても、経年劣化や通常損耗によるものは、借主負担になることはありません。
翻って、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用があった場合の毀損については、耐用年数を超えていても借主負担になることがあります。
通常損耗や経年劣化によるものは貸主負担、賃借人の故意過失、善管注意義務違反は借主負担と覚えておきましょう。
耐用年数6年を経過してもクロス張替え費用が借主負担になるケース
耐用年数の6年を経過しても、クロス張替え費用が借主の負担となるのは、故意・過失や善管注意義務違反があった場合です。
例えば、落書きによる汚れや何かをぶつけたことによる破れ、煙草のヤニによる黄ばみや臭い、ペットによるひっかき傷、清掃を怠ったことによるカビやシミなどが挙げられます。
テレビや冷蔵庫等の裏側の電気ヤケによる黒ずみ、ポスターや額等によるクロスの変色、太陽光による日焼け、エアコンの設置によって開いたビス穴や跡、画鋲やピンによる小さい穴は、通常損耗や経年劣化とされ、借主の負担にはなりません。
ガイドラインに、「経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがあるものである。」ともあるように、耐用年数を経過していても、工賃や人件費は、本来機能していた状態まで戻すための費用として、借主の負担となることがあるということです。
賃借人が負担すべき範囲と割合
では、借主の故意過失、善管注意義務違反が認められた場合、クロスの張替え費用は全額借主負担になるのかというと、そうではありません。
ガイドラインでは、「賃借人の負担対象範囲は、可能な限り既存部分に限定し、部分の補修工事が可能な最低限度を施工単位とすることを基本とする」と定めています。
できるだけ毀損した個所に限定となると、毀損した個所の部分的なキリバリ補修ということになります。
しかしながら、部分的に張り替えることで、そこだけ新しくなり、張り替えない箇所との色合いにキャップを生じさせてしまうことがあります。また、同じデザインのクロスが販売中止になっていて、同じ模様のクロスを調達できないこともあり得ます。
そういった状況では、部分的な補修ではなく、毀損のある個所の一面の張替え費用を借主の負担とすることも妥当としています。
また、耐用年数を経過していたクロスについては、クロスの本体費用は借主に請求できないまでも、張替にかかる工事費や人件費などの工賃は、全額負担できるとされています。
一般的にクロスの張替え費用は平米○○円とされていますが、その内訳には、本体部分と工賃部分があり、本体部分は耐用年数を超えると貸主負担になるが、工賃部分は耐用年数を超えても借主負担とできるということです。
クロス張替え費用の負担が0円になるって本当?のまとめ
長々と書きましたが、クロス張替え工事の負担については、原状回復ガイドライン基づくと、以下のようにまとまられます。
- 通常損耗・経年劣化による損耗は貸主負担
- 故意過失による損耗は借主負担
- 故意過失があっても減価償却の耐用年数6年を超える場合は、本体は貸主負担、工賃は借主負担
耐用年数6年を超えた場合でも、故意過失があった場合は、工賃は借主負担となることを覚えておきましょう。
クロス以外でも、減価償却の対象となる設備や備品はクロスと同じ考え方になりますが、畳表や障子・襖の張替えについては、消耗品という扱いになり、工賃だけでなく、本体に係る費用も請求できます。
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1976年生まれ、東京生まれ東京育ちで2人の娘の父です。長く賃貸管理の現場を経験してきました。自身もオーナーとして不動産投資や賃貸経営を行っています。その経験を共有し、皆様の賃貸経営にお役立ていただければと思い本ブログを運営しています。
【保有資格】CPM(米国不動産経営管理士)/(公認)不動産コンサルティングマスター/ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士/管理業務主任者/相続アドバイザー