長く賃貸管理の現場を経験してきました。自身もオーナーとして不動産投資や賃貸経営を行っています。その経験を共有し、皆様の賃貸経営にお役立ていただければと思い本ブログを運営しています。1976年生まれ、2人の娘の父です。
【保有資格】CPM®(米国不動産経営管理士)/(公認)不動産コンサルティングマスター/ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士/相続アドバイザー
賃貸経営において、オーナーにとっても管理会社にとっても解決が難しいトラブルの一つ騒音トラブル
です。
不快に感じるかどうか、騒音として捉えるかどうかは、音の大きさ、質、内容や頻度、受け手の許容範囲によっても異なり、解決だけでなく対応も難しい問題です。
ですが、解決が難しい問題だからといって、放置しておけば入居者の不満が膨らみ、退去にも繋がり、空室対策としてもきちんとした対応は欠かせません。また、放置したことでオーナーに対して損害賠償を請求される可能性もあります。
このシリーズの記事では、過去に私が経験し対応した騒音トラブルについて、現に騒音トラブルで悩む賃貸オーナーのために、対応方法や解決に至った経緯を紹介しています。
この記事を読むことで、解決の一助となれば幸いです。
前回のシリーズ「賃貸経営における騒音問題への対応事例-上階の入居者からの音編」はこちらからお読みいただけます。
- 木造アパートに多い上階からの騒音クレームへの具体的な対応事例を紹介しています。
- 加害者と被害者を明確にしずらいのが騒音クレームの特徴でもあります。
- 思い込みで対応せずに、証拠を集めて判断することが大切です。
実例: 上階からの床を叩く音に対するクレーム
木造アパートの、1階に住む男性入居者から寄せられた、「2階の人が、床(1階からは天井)をドンドンと叩いてくるのでうるさい」という内容の、上階から発生する音に対するクレームです。上階の入居者も男性で、それぞれ一人暮らしです。
1階の入居者に詳しい状況を聞くと、普通に生活をしていても、クローゼットを開ける時や料理をしている時、携帯が鳴った時など、音が発生するとドンドンとやられるとのことです。
かなりの衝撃音で、恐怖も感じたそうです。
この物件は、管理会社変更によって、前管理会社から引き継いだ物件です。前管理会社にも連絡をしたそうですが、対応してもらえず、管理会社が代わったことで、改めて当社にご相談いただいたそうです。オーナーに確認したところ、前管理会社からは報告はないとのことでした。
具体的な対応事例
連絡を受けてから、私が行った対応です。
事実確認
騒音問題では、事実確認はとても重要です。
音の発生源や内容、音の大きさ、頻度、発生する時間帯を把握し、受忍限度を超えるような内容なのか、迷惑行為となうような、夜遅くに継続的に行われているのかを確認し、「騒音」なのかそうでないのか判断することになります。
疑うわけではありませんが、過去にはクレームをしてきた方が、実は迷惑行為をしている加害者であったということもありました。
一方の話を鵜呑みにすることは、新たなトラブルを生む原因にもなりかねませんので、しっかり状況を把握できるよう、発生日時や内容の記録、録音(録画)や、騒音計での測定をお願いしました。
ただ、叩かれるのは急であり、1回の音が単発であるため、発生してから録音の準備をしても間に合わないということで、録音や録画はできませんでしたので、事実確認もできませんでした。
2階の入居者へ連絡
以前の記事に、事実確認が取れていない状況で発生源とされる方に連絡する際の注意点として、以下の2点を挙げました。
- 発生源とされる方を「加害者」として扱わないこと
- クレーム元がどの入居者であるかは伝えないこと
今回も同様に、「加害者」として連絡しているという風に捉えられないよう伝え方には注意しましたが、クレーム元については、1階の方からは、隠すのも難しい内容であり、伝えても構わないということでしたので、伝えています。
「1階の方からこういうクレームがありましたが、もしお心当たりがあるようでしたら、お止めください。もし1階の方に対して伝えたいことがあるのであれば、直接やり取りをするのではなく、当社に連絡いただければ、私からしっかり伝えます。」
このようなニュアンスで伝えました。
詳細が分からない状態では、この様な伝え方が限界です。
連絡後のやり取り
2階の入居者の反応は、思いのほか攻撃的でした。
叩いていることは認めたものの、「被害者は自分で、1階の方が天井を突っついてくるからやり返しているだけ」という主張でしたので、「そうであっても、やり返すようなことはしないで欲しい。」「1階からドンドンと叩かれるのであれば、私から1階の方へ注意をするので、録音して、連絡してほしい。」と伝えても、「急に発生するので間に合わないし、スマホで録って送る方法が分からないのでできない」との回答でした。
どちらが被害者でどちらが加害者という話をしているのではなく、お互いが共同住宅で生活していることを理解し、気になる音があっても、直接的に伝えるのではなく私を通してほしいと伝えても、なかなか理解していただけず、2時間ほどやり取りしたかと思います。
対応結果と課題
結果としては、1階の入居者が退去することになりました。
状況が変わらず恐怖も感じたためというのが退去理由で、やり取りの後、双方から連絡がなく、落ち着いたのかと思っていましたが、そうではなかったようです。
私としては、双方の音の程度の把握ができないままの退去となってしまいましたが、念のため退去理由が2階の音である旨の書面を差し入れてもらいました。
その後、次の入居者が決まりましたが、暫くしてその方からも同じクレームが寄せられました。
送られた音声データから音や時間も確認でき、2階の入居者が過剰に叩いていると判断したため、再度2階の入居者に連絡を取ったところ、言い分はほぼ同じでした。
1階の入居者からの、料理をする、ドライヤーをかけるといった生活音で叩かれているという内容を伝えると、「こちらも音がうるさくて眠れず、仕事に支障をきたしている」との反論でしたので、それであれば、もう少し防音のしっかりしたマンションタイプへの引っ越しを勧めたところ、別日にお母さんから「被害者であるうちの子を追い出そうとしている」といった電話があり、そこでも2時間ほどやり取りをしています。
結局状況は改善せず、1階の入居者が退去することになり、これで同じ問題で2人が退去したことになりました。
これでは、入居しても同じ問題で退去が続くことになってしまいます。オーナーと相談し、是正勧告の内容証明を送ることにしました。
内容証明は心理的に圧力がかかる書類です。相手の態度を硬化させてしまうことも十分に考えられますので、最初はお願い的な通知文の方が良い場合もあります。このケースでは、何度か連絡しても改善しなかったので、内容証明を選択しました。
騒音トラブルの解決が難しい点は、騒音を出している加害者が判別できても、加害者を退去させることが難しいことにあります。
ここでは詳しくは書きませんが、賃貸借契約を解除するには、受忍限度を超えた行為が継続的になされており、迷惑行為がなされていると評価され、貸主との信頼関係が破壊される程度に至ったと認められることと、いくつかのハードルがあります。また、証拠集めには時間も労力も掛かります。
オーナーからすると、2人も退去させたのだから、迷惑行為をしていることは明白で、信頼関係も破壊されていると思いがちですが、今回のケースでは、証拠も材料も乏しく、法的な判断となると、契約解除の理由には至らないというのが現実です。
ただ、このまま何もしないのでは、何も始まりません。
内容証明は、上記のことも理解していただいた上で、まずは是正勧告を行ったという事実を残すことと、少しでも改善のきっかけになればということで送ることにしました。
その後、1階には、事情を説明した上で、新しい方に入居いただきましたが、程なくして同じクレームが寄せられました。
引越しの時からドンドンと叩かれ、入居後は警察も呼ばれていたそうです。録音した音も送ってもらい、数値は不明ですが内容と時間は確認できました。
これまでの経緯や、空室時の内見中にもドンドンと叩かれたこともあって、相当過剰に反応する方であることは分かっていましたし、何度か訪問しても留守であることが多く、会って話し合うことを求めても応じてくれず、正常なコミュニケーションをとることも困難でした。
新しい入居者は帰宅するのも怖くなり、退去したいとも言っています。
再度同じような内容証明を送っても、効果は期待できませんし、現実的な対応策としては、入居者の協力を仰ぎ、時間をかけて証拠を集めていくしか方法はありません。
そういった状況ではありましたが、最後の手段として、内容証明であっても、オーナーからではなく、弁護士から送ってもらう内容証明を送ってみることにしました。
内容証明を送られることに慣れている人は、そう多くありません。誰から送られたものあってもドキッとしてしまうものです。ましてや弁護士からとなると、オーナーが法的な手続きに対して本腰を入れ、弁護士にも相談していると思わせることができ、心理的な圧力を掛けるのには、より効果的だと判断したからです。(「相手の態度を硬化させてしまう可能性がある」というリスクもありますので、慎重に判断することをお勧めします。オーナーには、弁護士から想定されるリスクも説明し、ご判断いただきました。)
結果、送達後約1ヶ月後に解約の連絡がありました。それから退去までは、何事も起こらず、スムーズに退去日を迎えられるようドキドキしていたことを覚えています。
退去立会の時に初めて対面したのですが、今まで電話で話して感じた印象とは全く異なり、物静かで低姿勢で、小柄などこにでもいそうな青年でした。室内もとてもきれいに使っていただいていました。
他人に対して攻撃的になるように感じではありませんでしたが、様々なストレスを抱えていたのかもしれません。
対応の難しさ、問題が大きくなった時に起こりえることなど、騒音トラブルのあらゆることを経験した出来事でした。何より入居時の審査の段階では、判断できないことに難しさを感じました。
この件以降、オーナーは新たな賃貸借契約は、定期借家契約とすることにしました。それが問題を長引かせない一番の方法なのかもしれません。