オーナー業をしていると時として遭遇するのが、入居者からの賃料値下げ交渉。
そんなときにどう対応するべきか、管理物件でもあった値下げ交渉について、弊社ではどのようにオーナー様に対処方法を提案しているのか書きました。
値下げ交渉は突然に
入居者からの値下げ交渉は、ある日突然やって来ます。その連絡も突然でした。
都内某所の70㎡近いファミリータイプのマンションです。
「こんにちは、○○を借りている○○と申します。今転居を考えているのですが主人と意見が割れていて決断しきれていないという状況です。検討しているところは部屋が狭くなるので、私としては住み続けたいのですが、家賃が下がるので、主人としては転居に前向きです。
もしこちらの賃料を1万円減額もしくは更新料をゼロにしていただければ、住み続けたいのですが、検討していただくことは可能でしょうか。」
入居者のライフスタイルや思考は生活の中で日々変化していきます。この方も特に引っ越しをしようとも考えていなかったそうですが、近所で行われていたリノベーション中の賃貸物件の募集チラシを見て、急に心が動いたそうです。
要点は2つです。
- 賃料もしくは更新料の減額要求
- 交渉に応じなければ退去
ですので、私からまず入居者に確認したことは、
- 減額要求を認めれば、必ず更新するのか
- 減額要求を認めなければ、必ず退去するのか
ということ。
この方は、「認めてくれれば必ず更新する」「認めくれなければ必ず退去する」とのことでしたので、判断としては、「住み続けてもらう」か、「退去してもらう」かの2者択一となります。
家賃を下げるか更新料を下げるか、退去してもらうかをどう判断するか
突然の連絡であっても、要点を絞り入居者の希望を確認すれば、オーナーの判断材料が絞られます。
今回は、減額交渉を認めるか、退去してもらうかの2択となりましたので、各選択肢について分析しました。オーナーに連絡するのは分析後です。入居者から連絡があってからすぐにオーナーに連絡するのは悪いことではありませんが、選択肢が複数ある場合は、オーナーの判断材料を用意してから連絡することの方が、オーナーに対しても丁寧な対応ではないかと考えています。
退去してもらうを選択した場合
退去してもらうを選択した場合に考えるべきことは、
- 同じ賃料で新入居者が決まるのか
- 新入居者が決まるまでのおおよその空室期間
同賃料で決まるかどうかは、時期的な判断もあります。連絡が5月、退去するとなると6月を予定しているということでしたので、賃貸募集では苦戦が予想される時期です。賃料水準は地域相場から考えて適正でしたので、同賃料で募集は可能ですが、空室期間が2ヶ月程になるのではないかと予想しました。
賃料が20万とすると、空室期間中の逸失賃料は40万円です。
減額を認めるを選択した場合
減額を認めるを選択するのであれば、「家賃の減額なのか」「更新料の減額なのか」についての判断材料が必要です。
家賃の減額か、更新料の減額かは、収益還元でみた物件の市場価値の視点で見てみます。
■賃料を1万円減額すると
この物件のある地域のキャップレート(投資家の求める利回り)が6%だとすると1万減額によって毀損する市場価値は、
(1万×12ヶ月)÷6%=200万円
となり、物件の価値は200万円下がることになります。
また、年間の賃料収入も12万円下がることになります。
■更新料を減額すると
更新料をゼロにするとなると、物件の市場価値は変わりませんが、2年間での収益は1ヶ月分の更新料20万円下がることになります。
■まとめると
・退去してもらうを選択した場合・・・想定される逸失利益は空室期間中の賃料40万円で、賃料の減額もあり得る。
・家賃の減額を認めるを選択した場合・・・年間の収入は12万円下がる。さらに市場価値が200万円下がる。賃料収入の減は退去するまで続く。
・更新料の減額を認めるを選択した場合・・・2年間の収入は20万円下がる。
となりました。ここまで分析できれば、オーナーとしても判断しやすくなります。
オーナーの希望は売却か保有か、市場動向によっても結論は変わる
まとめの3パターンを比較すると、収入の減が最も少ないのは「更新料の減額を認める」です。
ですから、収入だけで比較すると、「更新料の減額を認め」て、住み続けてもらう方がベストの選択になるのではないでしょうか。
但し、ここで、売却も視野に入れているオーナーであれば(特に市場価値が高い時期など高く売却できそうな時)、あえて交渉に応じないという方法もあります。
ファミリータイプであれば、オーナーチェンジで売却するより空室で売却する方が高く売れるからです。また、賃料相場が上昇している時などは、退去してもらい賃料を上げて入居募集をした方が良いこともあります。
そういう場合は、退去されたら売却(もしくは高い賃料で再募集)、住み続けるなら条件変更もなくそのまま保有とオーナー有利の交渉ができます。
今回のオーナーは保有を前提としていたため更新料の減額ということでまとまりました。
オーナーの資産を預かる管理会社の立場としては、入居者からの交渉の連絡があったら、まずは要点をまとめ、その時の市場動向をみながら選択肢を分析し、オーナーの要望を踏まえたアドバイスが求められるのではないでしょうか。
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1976年生まれ、東京生まれ東京育ちで2人の娘の父です。長く賃貸管理の現場を経験してきました。その経験をこのサイトでお伝えしていきますので、皆様の賃貸経営にお役立ていただけましたら幸いです。
【保有資格】CPM(米国不動産経営管理士)/(公認)不動産コンサルティングマスター/ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士/管理業務主任者/相続アドバイザー